まだある！健康器具を便利にする3つのツール

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「今日は、いい天気ですね。隣に座らせていただいてもよろしいでしょうか。」

「あぁ、はい、どうぞ。」若者はパンと牛乳を片手に持ち直して、コンビニの袋とともにベンチの
端に体をずらした。

「このところ、いい天気が続きますね。」

「・・・・」

「あのう、お腹が空いているのですが、何か頂けないでしょうか。」

若者は右手に持っていた食べかけのパンから、男の横顔、そして花壇のサルビアに目を移しながら、パンを口にくわえるとコンビニの袋から調理パンを一つ、つかみ出した。

「これで、いいですか。」

それは長さ１５センチほどのパンに、ウインナーやトマト、レタスなどを挟んだ調理パンだった。

「ありがとうございます、本当に申し訳ありません。男はそのパンをおし頂き、早速袋を半分ずりさげ頬ばった。二人は無言で食べ続けたが、男がパンを半分食べたとき、

「おじさん、飲み物は」

「いえ、大丈夫です。この公園に入ってきた時、水道の水をたっぷり頂きましたから。」

「・・・・」

「おじさん、お金は？」

「私は、世間で言う、乞食です。だからあなたのように慈悲深い人にすがって、生きているんです。」

「慈悲深い人って？」

「うーん、仏の心、とでも言いますか。」

「仏の心って？」

「うーん、人間の苦しみを取り除き、人間に楽を与えることですかね。」

「ふーん。俺はバカだからよくわからないけど、それっていいことだよね。」

「あなたがバカだなんてとんでもありません。あなたのおかげで一息つけました。本当にありがとうございました。」

「俺は、名前はようたと言うんだけど、中学生の頃から与太郎とか与太とか友達に呼ばれていたんだ。それを知った母さんが学校に怒鳴り込んでから、クラスでは与太郎とよばなくなったけど、先輩たちはいつも、与太とか与太郎とか呼んでいたんだ。与太郎というのは落語にでてくるバカな人のことなんだってさ。」

「ようたさんて、どんな字を書くんですか。」

「お日様の太陽をひっくり返して陽太ってかくんだよ。俺が３歳の時死んだ父さんがつけてくれたんだけど、よくわからないけど、太陽みたいな人間になってほしいと。だけど太陽では恐れ多いので前と後ろをひっくり返したんだって。太陽の方がよかったかもね。」

「そうですか、いいお名前ですね。」

「名前はよくても失業してしまってはね。」

「失業中ですか、パンを頂いてもよろしかったのでしょうか。」

「大丈夫、お金はいっぱいあるんだよ、退職金もいっぱいもらったし。でも就職は難しいんだ、面接は１０回も落ちたんだ。母さんは今年中に就職できればいいと言っているけど。」

「今までどんなお仕事をされていたんですか。」

「いろいろやったよ、バーテンもしたし、コンビニの店員もしたし、でも一番長いのは、先々月までやっていた『さわやか乳業』の工場でのピッキング作業だよ。１０年もやったんだよ。でも会社が食品事故を起こした後、リストラされたんだ。でもそのピッキングの仕事を下請けの運送会社が引き継いだので、俺たち１２人は全員、その会社に移ることになっていたんだ。だけど４０歳のおじさんと俺の二人は、その運送会社に採用されなかったんだ。そのおじさんが言うには、乳業会社の解雇後は、運送会社に全員雇用という約束だったんだけど、俺が書いたブログが原因でおじさんと俺は、不採用になってしまったんだってさ。」

「ブログをやっているんですか。」

「母さんに『お前は高校を中退して、学校の勉強をあまりしなかったんだから一日一回、短くてもいいからブログを書いたらどう？』と言われ、少しは母さんの言う事も聴いてやろうかな、と思って、十年以上毎日ブログを書いているんだ。」

「すごいですね。それでどうしてあなたとおじさんは、不採用になったんですか。」

「前日に製造した牛乳をコンビニに出荷するとき、２こ不足していたので、急遽、朝、工場で、前日と同じ賞味期限のものを製造して、それを出荷担当だったおじさんが出荷したんだ。めったにない事だったので、そのことをブログに書いたんだ。でもそれは日付詐称といって、工場ではやってはいけない事なんだって。食品事故と日付詐称事件が重なって、会社はかなりのダメージを受けたんだって。俺がブログに書かなきゃよかったんだけど、でもそれが悪い事だって、誰も教えてくれなかったし・・・ね。」

「あぁ、それでおじさんとあなたの再就職が、うまくいかなくなったんでですね。」

「おじさんは、しょっちゅう言ってたよ、『与太、お前は、ホンマにバカだ、阿吽の呼吸がわからない、底なしのバカだ。』と。おじさん、阿吽の呼吸ってどういう意味？」

「うーん、難しくて私にもわかりませんが・・・。あなたは、悪くないと思いますよ。世の中にとっては、いい事をなさったのでは。」

「ほんと？母さんの言う通り、ブログに、他人を傷つけるような事や嘘は、一度も書いていないし・・・。

今、ボクは親孝行をいっぱいしているんだ。中学生の頃は、クラスの女の子の弁当を盗んで食べたり、シンナーもしたし、高校時代の走り屋のときには、傷害事件をおこして、少年鑑別所にも入ったし。でも今は真面目になって、いっぱい親孝行をしているよ。母さんには毎月の給料日にラーメンを食べにつれっててあげるし、タバコもいっぱい買ってあげているよ。」

「お母さまは、タバコとラーメンがお好きなのですか。」

「そうだよ、鑑別所の出所帰りに母さんと一緒にラーメンを食べたとき、母さんが『おいしいね、おいしいね。』って食べ終わるまで、何度も何度も言ってたんだ。それがきっかけで、二人とも外食のときは、ラーメンを食べるのがやみつきになったんだ。いま母さんは体を悪くして働けなくなってしまい、家でテレビを観ることと、タバコを吸うことが楽しみなんだ。おじさんの楽しみって何？」

「そうですね。こうして今まで知らなっかったお人に食べ物を頂いて、お話しさせて頂くことですかね。」

「おじさん、生まれた時から乞食、さんをしているの？」

「いえ、学校を卒業して、６０歳になるまで働いていました。」

「リストラされたの？」

「いえ、私もあなたと同じように、この間、色々な会社で働きました。家具や家電、最近では車や健康器具の販売など、でも少し、心が疲れましてね。画期的な製品でもないのに少し型をかえたり、機能を加えただけで今まで使っていた物がゴミにされてしまう。今まで私の営業成績を上げる為に、５年後、１０年後のゴミを、新製品として、セールストークによって売りつけていたんじゃないかと。」

「でもボクは、若いころは３００万円かけて改造したシルビアに乗っていたけど、今は１０年落ちの軽自動車にもう、５年以上乗っているよ。」

「それはいい事だと思います。私の子供の頃は、テレビが壊れると町の電気屋さんで修理してもらったものです。今は販売店に持っていっても修理に１週間以上かかったり、修理費が以外に高かったりして、結局、新しくテレビを買う人が多いんですよ。」

「そうそう、母さんが言ってたよ。テレビで宣伝してた、『一万回使ってもこびりつかないフライパン』を買ったんだけど、半年もしないうちにくっつようになったって。」

「・・・そうですか。」

「おじさん、心が疲れたから、自分から仕事をやめたの?」

「・・・そうですね、この歳になると新しい物、他人が持っている物を欲しがるのも、なんだか空しい気がしまして。」

「でもさっき、ボクに、何かもらえないかって言ったよね。」

「あぁ、そうでしたね。申し訳ありませんでした。私は乞食ですから慈悲深い方からほんの少しだけ、食べ物や、時にはお金を、生きていくのに必要なぶんだけ頂いているのです。」

「ボクがプー太郎で、走り屋や万引きをしていた頃、母さんはよく『働かざる者、食うべからず。』って言ってたよ。」

「そうですね、お母さんのおっしゃる通りです。でも私はこの６０年、生きて、働いて、沢山の人と出会い、沢山の心を傷つけてしまいました。寝床につくと数々の出来事と後悔が心に渦巻いて・・・。でも乞食になった今は違います。寝るとき、気がつくとその日に会った人々の顔と優しさが思い出され、私の顔がゆるみます。」

「まぁ、万引きより乞食、さんの方がいいか。万引きはヘタすると警察いきだけど、乞食はどうなの。」

「一応、特に違法な事をしなければ大丈夫ですけど、時々不審者として職務質問され、怒られますが見逃してくれます。」